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2009年5月16日 (土)

始皇

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鄭問(Chen Uen)の『始皇(シーファン)』をご紹介。1998年から1999年にかけてモーニング誌に掲載された、秦の始皇帝を描いた歴史ドラマである。始まり方が若干唐突で、これは秦王・政が幼少時に他国の捕虜となっていた頃のことを描いたもののようだ。もしくは、政の心の中にあるトラウマであろうか。読み進むうちにそのへんも語られてゆくが、巻末に年表があるので中国史を知らなくてもじゅうぶん楽しめるだろう。

物語は、秦王が韓国から才人韓非を招く、というか強奪するエピソードから幕を開ける。韓非の教えを受けた秦王は中国統一に乗り出し、一番最初に韓非の祖国である韓国を攻め落とす。次いで趙国に狙いを定めるのだが、名将李牧が立ちはだかり15万の秦兵を失う。しかし李牧の聡明さを快く思わぬ趙王・遷の嫉妬心を利用することで、諜報戦により李牧を罠に陥れ自害へと追い込み、ついに趙国は滅ぼされてしまう。秦王がかつて住んでいた趙の街を破壊し、住人を皆殺しにするところで本書は終わる。
本来ならばタイトルどおり秦王が中国統一を成し遂げるあたりまでは物語が続くはずだったのだろうが、何らかの事情で連載が中止されたものと思われる。残念ながら、続編は今日に至るまで発表されていない。

鄭問氏の存在を知ったのはこの作品が世に出るよりも数年前のことだったが、その独特の画風、精密かつ大胆な描画には驚嘆し、舌を巻いた。現在でも大陸系あるいは韓国の絵描きさん&漫画家諸氏の描画技術は素晴らしいものがあるけれど、それらは日本のアニメーションやマンガのコピーの域を出ておらず、鄭問の衝撃には遠く及ばない。ちなみに鄭問氏は台湾の漫画家である。

僕は彼の描く筆文字に心惹かれる。インタビューによると安い小さな筆を使って描いているという話で、筆の持ち方が日本の書道での持ち方とまったく違っていて興味深かった。ミケランジェロが好きという氏の、カラー絵における布の描画表現なども、まさしく我が意を得たりといった趣さえある。

卓越した描画技術と表現力を持つ鄭問氏ではあるが、古くささを感じさせることも多い。それは氏の描く世界が三国志や史記の時代であればこそ活かされ目立たなかった弱点だと思うのだが、彼自身、日本の漫画について「絵の上手い下手うんぬんよりも、表現力には学ばなければならないと感じている」と語っていたように、デフォルメや感情表現、内面の描写といった点では日本の漫画を読み慣れた目には違和感と不満が残る。無論、単なる挿絵でしかないアメコミよりは数段上なのだが。フランスのBDしかり、彼らがいま新しいと騒いでいる表現というものは、日本のマンガにおいて40年も前にとっくに行われていた。『行け!稲中卓球部』を読んだことあるの?と聞いてみたいものだ。

ともあれ、『始皇』をはじめとした鄭問氏の漫画には、日本人には知り得ないような様々なエピソードがちりばめられており、読み物として面白いことは間違いない。機会があれば是非ご一読を。

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