音楽は自由にする
坂本龍一の自叙伝『音楽は自由にする』を読んだ。タイトルの『Musik macht frei』はアウシュビッツの門にある『Arbeit macht frei(働けば自由になれる)』からだろう、本書の内容とはほとんど関係ないあたりがかえって意味深だ。リアルタイムでYMOやサウンドストリートを聴いて彼のインタビュー記事にも目を通していた自分にとって目新しいものではなかったが、ニューヨークへ移住して以降の活動をまったくフォローしていなかったので後半1/3は楽しく読めた。
全体の長さからしても、音楽や生活や人間関係に関して詳細な事柄を語っている訳ではなく、時系列に沿ってざっと話してみた総論的な印象はあるものの、坂本龍一の人となりはよくわかる。彼は物静かで理知的で繊細で神経質といった一般的なイメージがあるけど、粗野で無計画でわがままでカッコつけたがりで目立ちたがりで破壊的と、その本質はラジカルそのもので、人間面でのネガを全て帳消しにできるほど巨大な才能を持った男…僕がそれにやっと気がついたのは、テラピンから『Neo Geo』というアルバムをリリースして彼が世界へ出て行こうとした時だった。
興味深いのは「自分はこれ以上ないっていうぐらいポップな曲を作ってるのに、リスナーもレコード会社もポップじゃないと言う。アタマにきたからポップスをやめてクラシック路線にした」というくだり。YMOの盟友・細野晴臣と高橋幸宏が極上のポップス語法を身にまとっているのに対して、自分はクラシックと現代音楽の語法しかなくポップスの素養がないと常々コンプレックスを感じていた坂本氏が、それなら自分のやりやすい形で音楽表現をやろうと決意したわけだが、結局それで何の問題もなかったのだから面白い。
250ページで1700円とやや高めの価格設定なので積極的にはお勧めできないが、興味のある方はちょこっと立ち読みでもしてみてください。
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